15cmx10cm 題名「二十日大根」
私たちの住むアパートから、歩いて一二分の所に
ナッシュマルクトがある。
ナッシュマルクトはウィーン市内最大で最古の青空公設市場で、ここに行くと大抵の食材を揃える事ができる。
私達は、今のアパートに移る前からこの市場のお世話になっているので、もう二十年ぐらいの付き合いになるだろうか。
カールス広場の少し手前、「金色のキャベツ」と呼ばれている有名なユーゲントシュティール建築である「セゼッション」の辺りから地下鉄U4のケッテンブリュッケンガッセ駅まで、ほぼ600メートルにわたって、野菜果物の店、肉屋に魚屋、香辛料の店、エスニックの食材店などが軒を連ねている。
今時は、レストランやパブなども増えてきて、一種のグルメゾーンにもなってきたようだ。
私はつい最近まで平日はほぼ毎日、私達家族の日々の食材を買いにここに通っていたし、時には絵のモチーフに使う果物や野菜などもここで買っている。
ところが、私が買い物カートを引きながら市場の中を歩いていると、売り子の兄さんたちは大抵いつも、「ニーハオ!」と言って声をかけてくるのだ。
一見してアジア人と分かるお客さんの中では、中国人が一番多いから、彼等はこれで良かろうと思ってやっているのだろう。
私としては「俺は日本人なんだけどなぁ・・・」と思いつつ、「ニーハオ」と声をかけてくる売り子は殊更無視して、足早に通り過ぎる事にしている。
勿論、いくつか私の行きつけの店というのもあって、そこの売り子さん達はさすがにこういう事はないけれど、何年か前に一度こんな事があった。
ある日の夕方、いつものように買い物カートを引きながら、ナッシュマルクトの中を歩いていて、ふと気がつくと、日頃人通りの頻繁なナッシュマルクトの中が、妙に静かで人気が無くなっている。
そんな中、私の3・4メートル先にぽつねんと一人の初老の男性が向こうを向いて立っていた。
私が「あれ?どっかで見た人だな・・・」と思っていると、その人はおもむろにこちらを向いて、私と眼が合ったのだが、なんと彼はオーストリア共和国大統領ハインツ・フィッシャー氏であった。
更に驚いた事に、彼は私を見ると間髪入れず、閉じた口の両端を上にあげて出来の悪い笑顔を作りながら、招き猫のように顔の横に持ってきた片手を開いたり閉じたりして、「ニーハオ」と一言言ったのであった。
あまりの事に愕然とした私は、下を向いて顔を隠し、こみ上げてくる笑いを堪えながら、今来た道を逆戻りせざるを得なかった。
おそらく、その頃国民投票で選出されたばかりの大統領は、民情視察という事でナッシュマルクトにやって来たのであろう。
あれ以来、この気さくで庶民的なオーストリア共和国大統領に、私はほのかな親近感を感じている。
絵と全く関係のない話になってしまった。
ともあれ、ここに掲載した絵のモチーフは、全てナッシュマルクトで買った物という訳ではなく、近所のスーパーで買った物もあるが、同じものがナッシュマルクトで売られているのは確かである。
15cmx10cm 題名「チェリートマト」
15cmx10cm 題名「メロン」
13cmx9cm 題名「半分食べたキウイ」
15cmx10cm 題名「輪切りのレモン」
13cmx9cm 題名「ヨナゴールド」
13cmx9cm 題名「クレメンティネン・オレンジ」
15cmx10cm 題名「スペインのいちご」
13cmx9cm 題名「ウィリアム洋梨」