今まで楽器はヴァイオリンばかり描いてきた賢一だが、たまには違う楽器も描いてみたらどうか、としばらく前から考えていた。
うちには、ピアノとハープがあるけれど、どちらも大きすぎる。リーコーダーもいいけれど、これは、これだけじゃ絵になりにくい。トロンボーンやトランペットも良さそうだったのだが、ホルンのくるっと巻いた管が美しいんじゃないか、誰か楽器を貸して下さる方はいないものか、と思案して、一人だけ思い当たる人がいた。
ウィーン交響楽団とウィーン・コンツェントゥス・ムジクスのホルン奏者のゲオルクさんだ。私は、週に何回か短い時間、日本茶専門店に勤めている。そこへゲオルクさんとヴァイオリン奏者の奥さんのりり子さんが時々いらっしゃる。奥さんが日本の方という事もあって、今までにも少しお話ししたことはあったけれど、勿論そんなに親しい間柄ではない。例の
日本室内管弦楽団の第一回目の演奏会では、りり子さんは、コンサート・マスターを勤めていて、ゲオルクさんは、確かモーツァルトのホルン協奏曲を吹いたのだった。その時、「あの楽器は、どういう風に音が出るのだろう」と興味を持った怖い物知らずの娘は、協奏曲の後の休憩で楽屋を訪ね、ホルンの手ほどきまで受け、音も出せて喜んで帰って来た、なんてこともあった。要するに母娘揃って図々しいって話になるのかな、私は、そんなに親しい間柄でもないりり子さんに、思い切ってお願いしてみた。
最初「音も出ないような使っていない楽器があれば....」ということでお願いしたのだが、何とゲオルクさんが、日頃吹いているヴィーナー・ホルンをお借りすることになった。(今、隣のアトリエにある。 何だかドキドキする。)
ゲオルクさんからホルンについて少しお話を伺った。
ホルンには、4種類あるそうで、古い順にナトゥーア・ホルン、バロック・ホルン、ヴィーナー・ホルン、フレンチ・ホルンだ。ナトゥーア・ホルンなんて、ただ管をくるっと巻いただけで、他に何にも付いていない。一体これで、どうやって音を作るんだか? でも、唇と息の操作で吹いたり、手を管の先端で広がっている部分へ当てて調節したり(これだけなんですよ!)、
実際に音階とベートーヴェンのソナタだったか、ちょっとメロディも吹いてくださったのだが、驚き、桃ノ木山椒の木、である。ゲオルクさんが吹くと魔法のようにドレミファソラシドやメロディが綺麗に揃って出てくる。初心者は、勿論初めっから、こんな難しい楽器ではなくて、多分ドレミを吹くのに助けてくれる付属品が一杯付いてるフレンチ・ホルンから習うそうだ。(いや、プロのオーケストラでもホルンの音がひっくり返ったりするのを聞くから、フレンチ・ホルンだって十分難しい楽器なのではないかと思うが。)
こんな魔法をどうやって習得したんですか、と聞くと、まあ、そうでしょう、一言「練習」と仰った。
さて、今回お借りしたヴィーナー・ホルンだが、この楽器は、ベートーヴェン・シューベルト後に作られた楽器で、例えば、フレンチ・ホルンに比べると、吹き口が広く、先端の広がっている部分は狭い。ということは、空気摩擦が大きいということで、温かい音になるそうだ。ゲオルクさん曰く、ご自分にとっては、ヴィーナー・ホルンの方が音の色彩やファンタジーが豊かだそうである。
ところが、このヴィーナー・ホルン、ヴィーナーというだけあって、世界中でほとんどウィーンでしか吹かれていないそうだ。(日本に熱烈なファンの方もいらっしゃるようだが....)「(オーストリアの)リンツやグラーツでチラホラいるかな?」とゲオルクさんは仰っていた。
う〜ん「ウィーンの静物画家」にピッタリのモティーフじゃありませんか!
ご夫妻が、演奏旅行へ出かけられている間に一枚仕上げる予定だ。
良い作品が生まれる事を祈っている。
マダムKenwan