私たちが、ウィーン12区の、申し訳ないけれど最初見たとき幽霊屋敷と思った程ボロいアパートに住んでいた頃、だから、多分1991〜92年頃、街中でどうしても眼について気になるポスターがあった。
私は、普段視覚に訴えるものに弱くて、選挙ポスターで極右政党が「ウィーンをイスタンブールにするな!」とか外国人排斥を謳っていても、自分も外国人なのに一向に見ていなくて、夫と娘に呆れられるのだが、当時そのポスターは、吸い付けられるように見てしまうのだった。それは、アロマ・テラピーの精油のメーカーのポスターで、それを取り扱う薬局によく貼られてあった。ある時、夫にその旨を伝えると「あれは、有名なポンペイの壁画だ」と物知りの彼は教えてくれた。
上の写真が、ポンペイの壁画の「la primavera」
それから何年も経って、アパートも12区から2回引っ越して今のところへ移ってから、またこの絵に出合う幸運が巡ってきた。日本にいた頃は、カレンダーってもらうものだと思っていたが、ここでは、買う方が一般的だ。我が家も毎年11月頃になると次の年のカレンダーを探し始める。木や自然を題材にしたカレンダーもあったけれど、絵のカレンダーを選ぶことが断然多い。ジョットー、フラ・アンジェリコ、ボッティチェッリ、ダ・ヴィンチ、ラファエロ、ミケランジェロ、ブリューゲル、フェルメール、レンブラント.......去年は広重、一昨年はアメリカのノーマン・ロックウェル、今年はスウェーデンのカール・ラールソン......
話を元に戻すと、そう、あの絵のカレンダーを見つけたのだ。薬局にポスターが貼られていた頃、余程譲って欲しいと頼もうかと思ったのだけど、流石に出来なかった私は、賢一も賛成してくれたので大喜びでそのカレンダーを手に入れた。これは、美しい絵でお好きな方は多いと思うけれど、私も無性に好きなのだ。多分、前世のどこかで、古代ローマでイタグレを飼っていたんじゃないかと想像している。
最初の画像「春」は、そんな訳で使い古しのカレンダーの一枚を額に入れ、それを背景にして、手前にヴァイオリンを置き、私がこんな風な構図はどう?とお伺いを立てると、賢一も気に入って描いてくれた絵である。
余談になるが、賢一がどこかで聞いた話で、文豪川端康成は、かの絵の複製を棺に入れてくれ、と言った程気に入っていたとか。この話の出典を探してみたが見つからなかったので眉唾っぽいが、川端康成はグレイハウンドを飼い、「わが犬の記」や「愛犬家心得」という短いが興味深い文章も書いているなかなかの犬好きで、私は勝手に、グレイハウンドのような紀元前からいる犬種を嗜好する人は、きっとあの絵にも惹かれるだろう、と睨んでいる。
マダムKenwnan